岩下登の健康のツボ 〜疲労回復や健康維持に役立つ方法〜
 

第29回 症例編 〜その8 心の症状〜

 こんにちは。岩下です。
 気温の変化が急激で、先日まで近所の神社でツクツクボウシが鳴いていたり、どこかでソメイヨシノが咲いたというニュースがあったり、でも、朝晩は寒く感じたり…。人間も動物も植物も、今年の気候には振り回されっぱなしのようです。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?今年の冬はとても寒いと長期予報で言っていました。夏の疲れや気温差による秋バテなど、体調に不安を感じている方も多いかもしれませんね。いろんな秋の過ごし方があるとは思いますが、自分の体を観察しながら、無理をしないでくださいね。
 この時期バランスを崩しやすい自律神経を整えるのに鍼灸治療はとても有効ですので、鍼灸師として申し添えておきます(^0^)

 ここでは入院治療を必要とする状態のものは省きます。
 今回、『心』を取り上げたのは、季節の変わり目には心の症状が出やすいからです。誰でも気分が浮き沈みしやすい時期なのです。それは、気候が大きく影響しています。
 また、この時期から春までに多くみられるのが「秋うつ」「冬季うつ病」です。これは日照時間が大きく関わります。脳内神経伝達物質のひとつである『セロトニン』というものがあります。このセロトニンは感情や気分のコントロールをし、精神の安定にとても大きな働きをする物質なのですが、日照時間が短いと、セロトニンが減少してしまい、精神の安定が保ちにくくなるのです。
 感情や気分の変化が激しくなったり、睡眠に変化が出たり、日常生活で自分の心身の変化に気付いたら、まず、太陽に当たることを心がけてみることをお勧めします。
 これまで季節性のうつを説明しましたが、他にも更年期・初老期うつや最近言われている仮面うつなどがあります。思い当たる方は、一人で悩まず、誰かに相談してくださいね。
 以下に鍼灸治療で効果があった症例をご紹介します。


症例1(O氏 60代 女性)

職業:主婦
病歴:更年期に入ってから気分の落ち込み・食欲不振・睡眠障害(眠れない)・便秘などが出現。薬物治療を受けているが芳しくない。
所見:痩せ型 声も話し方もはっきりしているが無表情
治療:
1日目
 @全身調整
 Aパルス(電気鍼) うつ伏せ 10分
 〈治療点〉(左右)天柱・風池・肺兪・心兪・膈兪・胃兪・腎兪・大腸兪
 B灸 湧泉1回
2回目 まだ変わらない
 @〜B同じ。
5回目 なかなか良くなった気がしない
 @パルス(電気鍼) うつ伏せ 8分
〈治療点〉1回目と同じ
 A置鍼 仰向け 15分
〈治療点〉(左右)内関・公孫・天枢、百会・中J・気海
 B灸 湧泉1回
10回目 良かったり悪かったりする 電気をかけるのをやめて欲しい
 5回目の@を置鍼15分に変更。A・Bは同じ
※この後、しばらくこの治療法で経過観察したが、本人の気持ちが変わり、一旦治療を中止した。2ヶ月ほどして本人希望により治療再開。半年ほど、週に2回のペースで治療を継続したところ、睡眠・便秘の症状が改善傾向になり、気分も安定してきたと話すようになった。服薬の量も減り、声や表情も明るくなってきた。1年後には旅行へ行けるほどまでに回復した。
補足説明:この患者さんは、自己主張をはっきりする、更年期うつの典型的な方であった。信用を得るまでに時間がかかったが、猜疑心も症状のひとつととらえ、患者さんのペースで、患者さんの希望とこちらの所見と照らし合わせながら治療を継続できた結果、笑顔が戻り、旅行に行けるまでになったと思われる。
 

症例2(P氏 70代 女性)

職業:無職
病歴:1年ほど前から家に引きこもるようになった。体がだるく、食欲もない。体が灼き灼きするのが不快でたまらない。
所見:痩せ型 声が小さく無表情 全身的に熱感がある
治療:
1回目
 @全身調整
 Aパルス(電気鍼) うつ伏せ 10分
 〈治療点〉(左右)天柱・風池・肺兪・心兪・膈兪・肝兪・胃兪・腎兪
2回目 あまり変わらない
 @パルス(電気鍼) うつ伏せ 8分
 〈治療点〉1回目と同じ
 A置鍼 仰向け 15分
 〈治療点〉(左右)内関・公孫、P中・鳩尾・中J・気海
 B灸 湧泉1回
3回目 少し体が軽く感じ、嬉しくて動きすぎたら疲れて、気持ちが沈んでしまった 胸のあたりが熱く感じる 手足の熱感は消失
 @〜Bは同じ。
5回目 動けるようになってきた ご飯も食べようと思うようになった
 @〜Bは同じ
10回目 朝から散歩に行くようになった 気分の浮き沈みはあるが大丈夫
 @〜Bは同じ
※現在も治療継続中
補足説明:この患者さんの口癖は「〜しなければいけない」であり、まじめな方である。体と心がアンバランスとなって、体が動かせない状態であった。鍼灸治療の他に、話をよく聞いて、体調や気分が優れない時があっても良いのだということや、焦らなくてもちゃんと良くなることを伝えていったことも効果的だったのではないかと考える。
 

この症例の紹介が、治療を受けるきっかけになれば幸いです。

次回は「膝の成長痛」の症例をご紹介します。



岩下 登 (岩下鍼灸院 院長)
著者

岩下鍼灸院 院長
岩下 登

Noboru Iwashita


MENU
【第29回】症例編
その8 心の症状
【第28回】症例編
その7 バネ指
【第27回】症例編
その6 むくみ
【第26回】症例編
その5 関節水腫
【第25回】症例編
その4 喘息
【第24回】症例編
その3 五十肩
【第23回】症例編
その2 耳鳴り
【第22回】症例編
その1 ぎっくり腰
【第21回】症状とツボ
その20 坐骨神経痛
【第20回】症状とツボ
その19 頸椎症
【第19回】症状とツボ
その18 小児の症状(2)
【第18回】症状とツボ
その17 小児の症状(1)
【第17回】症状とツボ
その16 精神的な症状
【第16回】症状とツボ
その15 泌尿器の症状
【第15回】症状とツボ
その14 呼吸器の症状
【第14回】症状とツボ
その13 口・のどの症状
【第13回】症状とツボ
その12 自律神経症状
【第12回】症状とツボ
その11 耳・鼻の症状
【第11回】症状とツボ
その10 女性特有の症状
【第10回】症状とツボ
その9 五十肩・テニス肘
【第9回】症状とツボ
その8 手足の症状
【第8回】症状とツボ
その7 消化器症状
【第7回】症状とツボ
その6 冷え性
【第6回】症状とツボ
その5 便秘
【第5回】症状とツボ
その4 膝痛
【第4回】症状とツボ
その3 腰痛症
【第3回】症状とツボ
その2 頭痛・頭重感
【第2回】症状とツボ
その1 眼精疲労 肩こり
【第1回】鍼灸について

いさはやWEB情報室の見方・楽しみ方
▲ページTOP

Copyright(c) Isahaya the chamber of commerce and industry. All rights reserved.
サイト内の画像・文章等の無断転載・複製を禁止します。