岩下登の健康のツボ 〜疲労回復や健康維持に役立つ方法〜
 

第26回 症例編 〜その5 関節水腫〜

 こんにちは。岩下です。
 梅雨が明けたとたんにこの猛暑!皆さん、いかがお過ごしでしょうか。テレビでも連日「熱中症」のニュースや予防法についての報道がされていますね。水分補給・温度管理など様々なことが言われていますが、一番は体調管理です。しっかり食べること・しっかり休むこと…。鍼灸師の立場から言えることは、「疲れや気血の滞りを取り除くこと」が、体調管理につながるということです。体が疲れていたり、冷えやストレスで気血の流れが悪くなると、食事も睡眠も充分に取れなくなります。ご自分でツボを押しても良いですし、近所の鍼灸院や治療院で治療してもらうのも良いでしょう。始まったばかりの夏を、どうぞ元気にお過ごしくださいね。

 よく「膝に水がたまった」、「病院で水を取ってもらった」という声を耳にします。当院にも「水を取ってもらったけどっまた腫れた」と言って来院される患者さんがたくさんいます。膝に限らず、関節には水がたまるという症状が起こり得ます。関節に水がたまった状態を「関節水腫」と言います。では、なぜ関節に水がたまるのでしょうか?
 関節には「滑液」という潤滑油のような働きをする、とろみのある無色透明の液体があります。これは、軟骨などの関節を構成する組織に栄養する働きも持ちます。このことから、滑液が関節にとても必要な液体であることが解りますね。
 この滑液は滑膜から分泌され、古い滑液は滑膜に吸収され、量を保っています。しかし、何らかの原因で滑膜に炎症が起きると、滑液がクッションの役割を果たすために多く分泌されます。その段階で適切な治療がおこなわれず、安静が保てないと、炎症が進み、滑液が過剰に分泌されます。そうなると、過常に分泌された分だけ、普段より関節の中に存在する液体が多いわけですから、関節の内圧が増し、圧迫されて痛みが強くなります。水を抜くと一時的にラクになりますが、滑膜の炎症が治らない限り、また水はたまります。
 水を抜くということは、関節の潤滑油と栄養分を抜くということになります。これを繰り返すということは、潤滑油と栄養分の不足を招くことにもなりかねません。ですから、早めに炎症を抑える治療をおこなう必要があります。
  今回は、膝関節と肩関節に水がたまった患者さんの症例を記載します。


症例1(I氏 60代 男性)

職業:農業
病歴:農繁期でとても忙しく、膝の痛みを感じていたが2週間ほどそのままで仕事をしていた。膝の痛みが強くなり、腫れてきたので来院したとのこと。
所見:左膝関節の腫脹、膝の伸びが悪く、左腰部〜臀部にかけての筋緊張あり(膝をかばっての症状)。
治療:
1日目
 @全身調整
 Aパルス(電気治療)左右横向き 各10分
 〈治療穴〉内側‥血海・内膝眼・陰陵泉・委中・内側関節裂隙部・大腿内側 中央部  外側‥梁丘・外膝眼・足三里・陽陵泉・風市・外側関節裂隙部・      左腰部〜臀部(6箇所)
 B直灸 10そう
 〈治療穴〉(座位で膝を曲げた状態)梁丘・鶴頂・血海・内膝眼・陰陵泉・      足三里・内側関節裂隙部
2回目(翌日) 少し痛みがひいたとのこと。
 @〜B同じ。
3日目(継続して来院) 痛みも晴れもひいてきたとのこと。膝ののびはまだ 悪い。
 @・Bは同じ
 Aパルス(電気治療) 仰向け・腹臥位 各10分
〈治療穴〉仰向け‥梁丘・鶴頂・血海・内側関節裂隙部・陰陵泉・内膝眼・ 足三里・陽陵泉外側関節裂隙部・風市・股関節前面
4日目(継続) かなりラクになってきた。膝の伸びも改善。
 @〜Bは同じ。仕事がまた忙しくなり、続けて来れないとのことで、自宅で 毎日直灸をしてもらうようにした。
5日目(1週間後) 仕事ができて良かった。痛みも腫れも増強なし。直灸は 継続中とのこと
 @〜Bは同じ
1ヶ月後 すごくラクになった
補足説明:膝関節水腫になって少し時間が経っていた症例であったが、薬物等使用していなかったので、治療効果が早く出た症例である。仕事の都合上、たまにしか来院ができていないが、3ヶ月経過後の経過も良く、直灸で予防もできていると考える。
 

症例2(J氏 70代 女性)

職業:農業
病歴:右肩関節が痛くなり、翌日には関節が腫れてブヨブヨしていた。
所見:右肩関節の腫脹・熱感あり。関節の運動制限ややあり。
治療:
1回目
 @全身調整
 Aパルス(電気治療) 左側臥位で10分
 〈治療穴〉肩井・肩中兪・曲垣・巨骨・天府・三角巾前部繊維・肩K・消L ・天宗・肩B・三角巾後部繊維・曲池・手三里・外関
 B直灸:座位で10そう
 〈治療穴〉天府・肩K・肩B・肩Kと消Lの中点
※仕事のため、不定期に来院。治療に来れない機関は自分で毎日直灸をするよ うお願いした。
2回目(10日後) 毎日お灸をして腫れも痛みもひいたとのこと。腫脹はほ ぼ消失。
 @〜Bは同じ
 

 関節水腫を起こす滑膜の炎症の原因は様々です。外傷性のものは滑液に血液が混じっていることもあります。また、膝や肩以外にも、足首などでも関節水腫は起こります。よく、「水を抜くと癖になる」と聞きますが、これは根拠のないもので、滑膜の炎症が治まらない限り何度も水がたまるので、それを癖になるといっているだけなのです。ただ、何度も水を抜くことは、最初にお話ししたように良くありませんので、早めに治療をすることをお勧めします。

 次回は「むくみ」の症例をご紹介します。



岩下 登 (岩下鍼灸院 院長)
著者

岩下鍼灸院 院長
岩下 登

Noboru Iwashita


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