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医療法人 祥仁会 西諫早病院 千葉憲哉


PET/CTの症例(腹部編)

 今回も、引き続きPET/CT検査による腹部の症例を、画像を参考にしながらご説明します。

症例@ 胃癌
  胃角部の進行癌です。硬い大きな癌病巣があり、周囲のリンパ節への転移があります。腸上皮化生型胃癌はピロリ菌が関与しています。


症例A 膵臓癌(すいぞうがん)
  膵臓の真ん中(体部)にある癌です。膵臓癌に有効な抗癌剤としてジェムザールが注目されています。

症例B 大腸癌
  直腸癌の術後に再発した癌巣です。肝臓にも転移巣があります。大腸癌の抗癌剤としてはオキサリプラチン、5−FU、ロイコボリンが使用されています。次世代薬としてアバスチン(分子標的薬)、カペシタビンが使用されつつあります。

症例C 腎臓癌 右の腎臓癌です。



症例D 副腎腫瘍 副腎腫瘍です。


 

症例E 前立線癌 膀胱(ぼうこう)の左背側に病巣があります。

 

症例F 卵巣癌
癌性腹膜炎の状態で、骨盤控内に癌が広がっています。抗癌剤としてはタキソテールと塩酸イリノテカンなどが使用されています。

症例G 子宮頚部(けいぶ)癌
子宮に筋腫があり、子宮頚部に腫瘍像が見られます。

【注】
FDG…PET/CT検査時に静脈注射する検査薬剤。
なお、PET/CT断面像は、正面左が右側、右が左側。

 終わりに、一年間に渡り『がんで死なない方法について』シリーズのご愛読ありがとうございました。
みなさんに知っていただきたかったことは、20世紀と21世紀では癌の診断と治療が一変したということです。「癌=死」から「癌は助かる」へ変わったということです。20世紀は癌を見つけるだけで精いっぱい、治療は手術と抗癌剤だけが主流でした。
しかし、21世紀になって内視鏡手術など各種手術法・各種放射線治療法・分子標的薬などの新しい化学療法等々、極めて有効な治療法が次々と開発・活用されています。決してあきらめないで前向きに生きてください。診断から治療までPET/CTを活用することによりこれらが可能なのです。
※本シリーズは今月号で終了します。
(平成20年4月14日 追加)


PET/CTの症例(頚部・胸部編)

 今回は、前回に引き続き、PET/CT検査による症例の違いを、 ” 頚部と胸部 ” の画像を参考にしながらご説明します。

第1例目(症例@)は副鼻腔癌(SUV9.9)の症例です。残念ながら、肺癌との重複癌の末期像です。


第2例目(症例A)は中咽頭癌(SUV10.5)の症例です。頚部リンパ節に転移巣があります。

第3例目(症例B)は下咽頭癌(SUV14)の症例です。癌が浸潤し、リンパ節に転移しています。

第4例目(症例C)は甲状腺癌(SUV33)の症例です。甲状腺癌でも悪性度の高い種類です。
  第5例目(症例D)は食道癌(SUV12)の症例です。すでに縦隔・頚部リンパ節への転移がありました。

第6例目(症例E)は肺癌(SUV6)の症例です。転移はありません。


第7例目(症例F)は肺癌(SUV9)の症例です。症例Eより悪性度が高く、縦隔リンパ節、左副腎へ転移しています。

【注】
『FDG』・・・PET/CT検査時に静脈注射する検査薬剤。
『SUV』・・・FDGの集積度を示し、一般に癌はSUV値が高い。
「PET/CT断面像」は正面左が右側、右が左側。
(平成20年3月14日 追加)


PET/CTの症例(脳編)

 これまでにいくつかの症例についてお話ししましたが、今回は、私たちが、PET/CT検査の画像データから読み取っている診断の一部をご紹介します。PET/CT検査による症例の違いを、脳の画像を参考にしながらご説明します。

 第1例目(症例@)は、正常な脳の症例です。年齢が若いだけに、脳へのFDG薬の集積が強く、極めて高いSUV値を示しています。脳の働きが活性化していることを示しています。

 第2例目(症例A)は、老人性認知症の症例です。症例@と比べて、脳全体の集積度が低下しています。脳の働きが低下していることを示しています。

 第3例目(症例B)は、小脳変性の症例です。小脳部分だけが集積低下しており、大脳は正常の集積度を示しています。小脳が働いていない(運動・姿勢制御不可)ことを示しています。

 

 第4例目(症例C)は、てんかんの症例です。左右の集積度が異なるのが特徴です。右半球(向かって左側)の2カ所の集積低下部分がてんかん病巣です。手術療法の適応です。

 第5例目(症例D)は、下垂体腫瘍の症例です。左右も目の中心部奥の脳底に位置するトルコ鞍部にある下垂体(種々の刺激ホルモン分泌)に高集積を示しています。良性です。

 第6例目(症例E)は、転移性脳腫瘍の症例です。左半球(向かって右側)の脳に円形の高集積(サイズ3センチ)が見られ、乳がんの脳転移であることを示しています。ガンマ−ナイフ治療の適応です。

【注】
FDG…PET/CT検査時に静脈注射する検査薬剤。SUV…FDGの集積度を示し、一般に癌はSUV値が高い。
なお、供覧する脳のPET/CT断面像は、正面左が右側脳、右が左側脳。

 (平成20年1月24日 追加)


今回は『癌相談外来』についてお話しします。皆さんは症状が出て、病院で検査を受診し「あなたは○○癌です」と言われたらどうするでしょうか?

@素直に医師の指示に従い、言われるままに行動する A家族・友人に相談する Bインターネットで情報を探し回る C泣き明かし、結果的に放置する D医師の指示と家族友人の話、そして自分で医学書やインターネットで病気のことを調べて、それを踏まえて医師に依頼する、初診の場合はいずれかでしょう。

しかし、すでに治療中であったり、再発されている場合はいかがでしょうか?治療法に疑問や不平があっても主治医が忙しそうで、なかなか主治医と本音で語れる場合が少ないのが現実ではないでしょうか?次第に諦めや放置につながっていないでしょうか?

 先に医師の事情をお話ししておきます。先月号でお話ししたように、医師は関連学会の取り扱い規約や学会での最新診断治療法を基に治療を行うのが普通です。ですから、患者さんにとっては「これがベストだ!」と思って、ついつい十分な説明もしないまま、患者さんの意向とは異なった治療が行われることが多いのです。医師は懸命に治療をしているのに患者さんは不満たらたらで、「相談外来」に駆け込みます。

 例を挙げましょう。40歳女性。友人と最近新しい仕事を始めたばかりでしたが、ふとしたことから頚部の腫瘤に気が付き耳鼻咽喉科を受診、咽頭癌との診断でした。さっそく外科手術がなされました。ところが、4カ月後再び手術部位に疼痛をおぼえ受診。主治医は診察や様々な検査(CT・MRI・超音波検査など)で懸命に原因を調べましたが、検査結果は局所再発とは診断しがたい所見でした。医師は「再発はないでしょう。様子を見ましょう」と言いました。その後も痛みがとれず何度訴えても鎮痛剤の処方だけでした。そこで再発を疑った本人は「癌の相談外来」にやってきました。「再発をPET/CTで調べてください。会社を設立したばかりで、再発では事業を辞めねばならない」とのこと。図1を見てください。PET/CTの検査結果は局所再発でした。主治医の“癌見落とし”と考え、主治医への怒りを訴えました。しかし、CT・MRI・超音波検査などには限界があり、現実に主治医は懸命に調べたのです。
 

PET/CTの診断能が勝っていただけなのです。詳しく経緯を説明して抗癌剤療法を行ったところ、治療効果は抜群でした(図2参照)。が、再び数ヶ月後の検査で再発が疑われました。

 今度は手術を勧められましたが、どうしても仕事上入院はできないとのことで放射線療法を本人が選択し、現在治療中です。この事例のように医師が懸命にやっていても患者さん本人に説明がうまく通じていないことがあり、そのため病院を替えたり、治療法を変えなければならないのです。

 そこで、私はこのような患者さんの悩みを少しでもなくそうと「癌相談外来(セカンドオピニオン)」を始めました。医師と患者さんの双方の間に立ってうまく治療が受けられ、良い結果が出るように方向づけるアドバイスをしています。病気が癌だけに患者さんはつい感情的に行動しがちです。医師とて現在の医療は高度化・複雑化しているだけに十分な説明と納得の機会がもてないのが実情です。世間では患者さんを軽視しているとかモルモット視しているとか批判がありますが、全くの見当違いです。特にインターネットで迷路にはまり込み、怪しげな民間療法を選択し、とんでもない結果に陥っている場合さえあります。医学は日々加速度的に進んでいます。中には患者さんの方がインターネットにより先進的医学情報を知っている場合さえあるのです。多くの医師は自分がまだ知らない厚生労働省未承認の新薬の話をされたりして“ドキッ”とした経験があるものです。しかし、偏った見解や、人間には応用されていない動物実験の結果であったりすることも多く含まれています。治療・診断についての不満や不安などの解決には、双方のコミュニケーションが一番重要なのです。「医師の常識は患者の非常識、患者の常識は医師の非常識(医学情報の偏在)」

であることを忘れないでください。もし、それでも癌治療診断について疑問がある場合はぜひとも主治医にご相談下さい。

  (平成19年12月19日 追加)

  今回は癌検診の意義について考えてみましょう。「癌検診を受けませんか?」と言われたら、あなたは次のどれを選びますか? @健康に関心があり、自らすぐに受けたい A癌と言われたら怖いので拒否 B周囲から薦められ仕方なく受ける。 それぞれへの筆者なりのコメントは次の通りです。まず、@に対しては、多くは主婦や事業主などが積極的です。何故ならば癌年齢に達した時、「癌が社員や家族自身を、さらには家族・事業そのものを経済的危機に陥れる怖さ」に思いが至るからです。最近の健康ブームはその現れです。まずいのはAです。これは癌が不治の病とされた古い20世紀的思考です。別の言い方をすれば「癌になったらどうせ治らない」と思いこむ問題先送り型です。多くのリスクを伴う事象は時間がたてばたつほど、多くは最悪の結果となるのが普通です。決断が早いほど解決手段は多くあり、遅くなるほど解決手段は少なくなるのです。BはA的思考ですが、自らは@のような積極的受診の必要性を自覚しており、癌検診を受けてみるとやっぱり受けてよかったと気付くのです。   症例(1)は@の型です。50歳・男性、スポーツマンで健康には自信があったのですが、癌年齢・事業拡大予定・大家族と責任重大な立場の方です。PET/CTの検診の結果、「大腸癌ポリープ(病期0期)」でした。もちろん、手術は不要で内視鏡的にポリープ切除を行い全て解決。「あーよかった。危機一髪だった」との言葉を残し、笑顔で帰宅したのでした。症例(2)は53歳、血便・体重減少・肝機能障害にて病院を受診。大腸カメラで回盲部結腸に進行性大腸癌が見つかり、さらにはPET/CTにて腹腔内リンパ節転移・肝臓転移も明らかとなりました。病期は4期です。もちろん、手術(大腸切除・リンパ節郭清・肝臓部分切除)を行い、その後抗癌剤療法・入退院を繰り返しています。
再発・増悪が心配です。この症例はAの型で症状が出現したから仕方なく病院に行ったのです。これでは救える命が救えないのです。
  検診といえば終戦後は結核、その後は高血圧など動脈硬化性疾患が問題となった時代がありました。 その時代は血圧測定と胸部レントゲン撮影が検診の中心でした。

 

しかし、21世紀に入り、検診制度の陳腐化・癌への認識不足から、「男性の2人に1人、女性の3人に1人の方が癌が原因で理不尽な死を迎える時代」になりました。当然、皆さんの病気に対する認識が変わらねばなりません。やっと政府も重い腰を上げ、癌対策基本法を策定し、「今後5年以内に癌検診受診率20%を50%にまで引き上げること」を決定しました。しかし、問題は検診にかかる費用と癌検診精度の相関関係です。従来の癌検診の癌発見率は人口1000人に1人(日本検診学会)、PET癌検診は人口100人に4人(日本核医学会会員施設)とすさまじい癌発見率の差です。しかし、癌検診の自治体の負担は1〜2万円が限度なのです。全ての国民に高精度の癌検診が経済的に行えない事情があるのです。「企業幹部が癌で死んだから企業が潰れた」は人ごとではありません。よく起こる事実です。そこで事業所の健康保険組合や各事業主が、検査料が高くても精度が高い癌検診の助成制度を導入する企業が徐々に増えてきたのが現状です。当然、企業の担い手を急に癌で亡くすことの企業にとっての損失は多大なものであると気付いてきています。「自分の健康管理ができない人は企業の経営管理をできない」と見ることが米国企業の常識であり、企業のトップハンターの一番大きな利得要件の一つが健康保険料の額なのです。

  要するに、癌検診受診率と発見率精度と検診費用を念頭に置いて「自分が人生の、企業は自社の命運をいかにリスク管理するか?」が問われていることは間違いありません。検診結果を医師から十分に説明を聞いて、自分の健康状態を知ることです。それが企業・家庭の健康につながるのです。検診を受けただけで放置することは検診費用の無駄です。検診の結果を生活の中に生かすことが重要であり、PDCAのCは必要です。あらゆる企業戦略上のPDCAと同じなのです。 

※PDCAとは、P(PLAN)・D(DO)・C(CHECK)・A(ACTION)という事業活動の「計画」「実施」「監視」「改善」サイクル

 (平成19年11月26日 追加)


 今回は、「癌難民にならないように」についてお話ししましょう。皆さんは癌と診断されたら、わらをもつかむ思いで専門医のいる大きな病院はどこか探して、駆け込むことでしょう。殆どの人がそうするでしょう。これは正しいのでしょうか?結論を先に言えば半分正解、半分不正解と言えます。なぜでしょうか?皆さんが駆け込みたい全国的に有名な病院として国立がんセンターが挙げられます。そこで生まれた言葉が実は「癌難民」という言葉です。いきさつはこうです。全国から癌と診断された人が紹介状を持参し、治療を受けます。患者家族は最高の医療が施され、これで完治したと誤解してしまうのです。地元に帰ってきてしばらくすると、中には癌の再発が起こってきます。本人は家族と再び、がんセンターに駆け付けることになります。そして「残念ですが再発です。しかし、手術すべき患者で病床がいっぱいで地元で治療を受けて下さい」と冷たい言葉が返ってきて、逆紹介状を仕方なく受け取り地元に帰ります。地元の医師は自分が治療していないので責任は負えないと入院を拒否したりします。行き先がない癌患者が出現するのです。これが「癌難民」です。
 そこで私が提案したいのは「患者さんやご家族の方が、もっと冷静に癌治療の方法を判断できないのでしょうか?」ということです。
 マスコミは毎日、テレビ・新聞・週刊誌で「癌不安」をあおり、さらにはカリスマ医師まで登場しています。カリスマ医師の登場を願わなければいけない病気は極めてまれなのです。さらにはインターネットで検索し、迷路に迷い込んでることに気付かず、結局、治療効果の証明されていないあやふやな治療法を行っていることが多いのです。中には初期乳癌の症例で、「びわの葉を乗せる民間治療」を長い間行い、結局は癌がざくろ状と化し、悪臭を漂わせた末期乳癌になった揚げ句やっと病院に駆け込んだ症例さえあるのです。
 現在、多くの癌疾患では北は北海道から南は沖縄まで、日本全国一律にほぼ同程度の診断治療がなされています。
 全国の医師は医学の学会で症例の診断治療内容について、自らの経験を報告し治療成績を出しあい、より良い治療法を確立しようと研鑽しているのです。それを長年積み重ねてきて各臓器の学会で「○○癌取り扱い規約」を作成し、それに基づき治療成績を向上させています。そして最近は「○○癌診療・治療ガイドライン」が出されて、新しい各種抗癌剤の使い方・放射線療法・手術法の違いについて評価をしています。国際的に日本の癌診療・治療は非常に優れており、トップレベルにある分野も多いのです。
  日本は医療水準が平準化されており、国民は日本全国どこにいても、ほぼ同様の治療を受けられるのです。特殊な治療以外はもっと地元の医師を信頼し、安心して治療に専念して頂きたいと思います。むしろ大切なのは初期治療後の長い経過観察における医師との人間関係です。「手術はしたけど、再発したら知らん!」で一番困るのは患者本人です。やはり患者のために人肌脱いでがんばろう!と医師にやる気を出させることです。どんな小さな不安をも聞いてくれる関係にならないと治療はスムーズにいかないのです。
 すなわち、納得と安心が得られる癌治療とは診断と治療がうまく行われているかどうかです。
 図@をご覧ください。診断から治療への流れが書かれています。医師はこの流れに沿って患者さんや家族に説明を行うわけですが「診断については原発巣が分からない」「癌細胞の種類が分からない」「病期(癌巣の大きさ・リンパ節転移・遠隔転移)が分からない」といったことが多々起こり、医師はどのように治療を進めるべきか?患者にそれをどう説明をするべきか?20世紀には迷うことが多かったのです。
 しかし、21世紀に登場したPET/CTがその「分からない部分」をさらに明らかにしたのです。既存のCT・MRI・超音波診断にPET/CTを加えると、診断から治療の流れが明確になり、説明と理解を得ることができるのです。また、図Aにある各種治療法の選択が可能になります。PET/CT施設と連携した癌診断治療が望まれる理由はここにあるのです。PET/CTを利用した癌診断ならば地方でも十分満足する診断・治療が可能なのです。
(平成19年11月7日 追加)


 今回は「癌はどうしてできるのか?」についてお話します。
 医師は癌の相談を受けた時、「祖父も父も癌で亡くなりました。家は癌家系ですから、私も癌になるのでは?」との質問をよく受けます。では“必ず家系で癌が発生する”のでしょうか?確かに生活習慣とは無関係に遺伝子のみが原因で発生する癌が知られています。それは20種類ほどで極めて稀な発生頻度であり、多くは若年で発生します。
 また、一般的に家系での癌発生も稀であり、実は癌発生のほとんどは生活習慣が主な原因なのです。
 人間の体は父と母の生殖細胞が合体した1個の細胞がどんどん細胞分裂を繰り返し、60兆個の細胞で人体が成り立っています。人体の60兆個の細胞は全て両親からの遺伝子を持っています。合体したときの生殖細胞が両親の遺伝子を持つから親子・兄弟は顔も形もよく似ています。
 我々は“体質が云々”とよく言います。その体質こそ、遺伝子のなせる業なのです。世間では遺伝という言葉を悪い意味で使用しています。「あの人の病気は遺伝だから結婚するな!」と偏見とも受け取れないような発言を耳にします。実は多くの病気は全て遺伝子が関与しています。それならば、親子・兄弟は必ず同じ病気が出るはずです。しかし、そうはならない。何故か?実は病気の発生には生活習慣が大きく関与しているのです。家族性に起こるように思われるのは、同居すると“同じ食事”“同じ生活習慣”をついしてしまうからです。ヒト遺伝子の構造の解明が進むにつれ、ある種の遺伝子がある特定の病気の遺伝子であることが少しずつ解ってきました。
 ヒトの遺伝子の中に、癌遺伝子(癌発生のアクセル)と癌抑制遺伝子(癌のブレーキ)がそれぞれ20種以上見つかっていますが、この均衡が壊れたときに正常細胞が癌細胞に変わり、癌が発生するのです。この壊れる原因こそが生活習慣そのものなのです。癌に関与する主な生活習慣の要因は、“たばこ・塩・アルコール・性行為感染症・紫外線・野菜不足・脂肪摂取過多・運動不足・放射線被爆”などです。
 例として肺癌を挙げてみます。「タバコを吸うと癌になる!」とよく言われます。肺癌は主なものだけで10種以上あります。その中でもタバコが発癌に関与しているものは、扁平上皮癌と小細胞癌の二つです。タバコの発癌物質(ベンツピレン、ニトロソアミン)が体内で活性化し、遺伝子に変化を起こし肺癌が発生することは医学的に実証されております。タバコによる肺癌は、他の肺癌と比較して増殖能が強く、“たちが悪い”ので急速に進行します。
   なお、疫学的にはタバコをやめると癌の21%が防げると言われています。要は我々の病気を起こすスイッチは生活習慣なので、遺伝子があっても生活習慣の工夫で病気の発生を予防できるのです。癌も防げるのです。では、禁煙するとどのくらいの効果があるのでしょう。タバコを吸う人が癌になる確率を100とすると、非喫煙者は20ほどです。すなわち、5倍の確率で喫煙者は肺癌になるのです。もちろん喫煙者のそばで煙を吸うだけでも発症します。
症例@ 今回の症例@を見てください。70歳の喫煙者です。同一人物の右肺と左肺に別々に腫瘍ができています。主治医はCT検査の結果、「肺癌なのかどうか?どの種類の肺癌なのか?どのような治療法がベストなのか?」分かりませんでした。PET/CTでは即、答えが出ます。右肺の腫瘍はFDG(PET/CT検査で用いる検査薬剤)の集積度が低くほとんど染まっていないので腺癌です。左肺の腫瘍は赤く染まっていますので扁平上皮癌です。すなわち、タバコが原因の肺癌です。右肺は手術療法がベスト、左肺は放射線療法と抗癌剤がベストという答えが出ます。ま症例Aた、症例Aは全身転移の手遅れ状態の肺癌です。早めの診断が望まれます。
 PET/CTを用いると、早期に肺癌を見つけるばかりでなく、癌の種類と最良の治療法が推測できるのです。さらには治療効果さえ的確に判断可能です。20世紀にはなかった診断技術であり、“たちの悪い肺癌”も助かる時代になりました。でも、禁煙は必要なのです。


 今回は、多くの医師が癌外来で最も頭を悩ます「腫瘍マーカーが高値であるが、癌がどこにあるか判らない症例(原発巣不明癌)」についてお話しします。
 腫瘍マーカーは医師が癌を疑うとき提出される検査で、血液中の成分分析による癌の発見方法です。苦痛が少なく、手ごろなため、よく利用されます。患者さんは腫瘍マーカーが上がっていると言われたら「癌だ!」と断定してしまいがちです。しかしそれは早計です。
 早計である理由は腫瘍マーカーには欠点があることです。
 理由1)悪性疾患(癌)に特異的でなく、良性疾患(炎症)でも上昇することがあり、さらには一つの癌腫に特定されず、種々の癌でも上昇します。
 理由2)個々のマーカーにより感度が異なるのです。だから強く癌が疑われる場合もあれば、上昇しても癌が考え難い場合があるのです。
 理由3)癌があってもマーカーが上昇しない場合もあります。したがって、医師は二つ以上のマーカーを測定し、上昇していれば、その原因と考えられる癌を問診・診察・検査やその画像で懸命に探すのです。
 本日の症例は45歳男性です。会社の検診では特に異常は指摘されませんでした。ところが血圧測定などをしてもらっているいつもの"かかりつけ医"の先生から「腫瘍マーカーが上がっているよ」との指摘を受けました。CA19−9とCEAの二つが上がっていたのです。CA19−9は主に膵臓・胆嚢・胆管の腫瘍マーカーとして、CEAは消化器・卵巣・乳腺・肺などの腫瘍マーカーとして知られています。本人は全くの無症状なのです。「えっ!癌ですか?」息をのみました。かかりつけ医はCT・超音波検査・胃カメラ、さらには逆行性胆道造影などを行いましたが、癌が見つからないのです。首をかしげました。そこで困った先生は市内の大きな公立病院を紹介しました。早速入院し、検査・検査の連続です。しかし、何も見つからないのです。医師も本人も途方にくれました。そこで先生が思いついたのが"PET/CTの保健診療"です。すぐに電話予約。実はPET/CTの検査の受診日に即、診断が出ました。
    写真1はPET/CT受診時の胸部CTです。実はこの中に病変があるのですが、このCTを見た専門医でも肺の病変に気が付きませんでした。ところが、PET/CTの画像(写真2)を見てください。赤く色がついている箇所が病変です。「肺癌」なのです。専門医でなくても皆さんも赤い病変にはすぐに気が付くでしょう。しかも、一般の胸部レントゲン写真では発見しにくい場所にあるのです。さらに、左右の肺の間の縦隔とよばれる箇所のリンパ節と左鎖骨上リンパ節・右斜角筋前リンパ節への転移が見られます(写真3)。しかし、脳・骨・肝臓・対側肺には転移はありませんでした。早速、胸部内科へと紹介されました。治療開始です。病期はすでに進行期だったのです。もう一度CTを見直してみても、これらの病変を指摘できません。
 全身に転移する一歩手前だったのです。
 このように腫瘍マーカーだけが高く、癌が見つからない癌のことを「原発巣不明癌」と称しています。多くの検査を受け、悩んだ後に、やっとPET/CTにたどり着き受診されるケースが増えています。紹介を受けた「原発巣不明癌」の結果を集計しましたところ、そうした症例の約半数に原発巣が明らかとなりました。前述のごとく、炎症でも癌でも腫瘍マーカーは上昇するのですが、当然炎症と癌はPET/CTでは区別できますので、炎症で腫瘍マーカーが上昇した場合でも診断できるのです。
 「腫瘍マーカーが高値であるが、癌がどこにあるか判らない症例(原発巣不明癌)」にて悩んでいらっしゃる方は、ぜひ一度、PET/CTを受けてみると良いでしょう。
(平成19年8月24日 追加)


 今回はPET/CT検査による病期(病気の時期)診断の大切さをお話しいたします。20世紀末以降、大きく変わったのが乳癌の診断と治療法です。
症例1は45歳の女性です。自ら左乳房に「しこり」を触れたため、乳腺外来を受診。超音波検査・マンモグラフィ・CT・生検などの結果、腋窩部に硬い移動性のリンパ節を触れ、さらにCTやMRIなどで他の部位への遠隔転移(遠い部位への転移)はないとされたため、「進行乳癌1期」と診断されました。そこで「今、手術を受けると10年生存率(10年後に生きている確率)は80%ほどでしょう」と説明を受けました。手術するかどうか悩んでいるとき、友人の一人が「インターネットで調べたらPETがよかそうよ。PETば受けてみんね!」と言われ、PET/CTを受けることになりました。
そのときのPET像が写真@です。左乳腺に黒いFDG集積(検査薬剤の集積像)があり、PET/CT画像では「黄色の塊」がそれです。これが原発巣です。さらに左腋窩部に数個のリンパ節への集積があり、リンパ節転移が明らかです。そこまでは主治医の説明通りでした。ところが、PET像では右胸真ん中に黒い集積が見られました。PET/CT像ではよく見ると右の肋骨の部位にFDGの集積像(赤い集まり)を認めます。すなわち骨転移(遠隔転移)です。CT・MRI・マンモグラフィでも明らかにできなかった病巣です。本人いわく「右胸は痛くも痒くもありません」。結局、「進行乳癌4期」と病期を訂正されました。4期の10年生存率は10%ほどしかありません。骨転移は疼痛・病的骨折を起こすことになるので、鎮痛剤や放射線照射が有効とされ、破骨性骨折(骨が溶けること)を防ぐためビスホスホネート製剤投与が必要です。肝臓・肺への転移はないことが分かり、悩んだ末、やっと手術を受けようという気になりました。
いかがでしょうか?もし本人が右肋骨転移を知らずに手術を受けると半年か1年後に右胸の痛みを突然訴えてくるでしょう。その時、医師は「残念です。再発です」と言うでしょう。しかし、正確には「再発」ではなく「病期診断間違いによる取り残し・見落とし」なのです。
   癌治療では病期診断は大切です。なぜならば、病期により治療法が異なるからです。間違った治療法は治癒や延命をもたらさないのです。病変の局所にとらわれず、全身を俯瞰する診断法が必要です。特に乳癌は全身病としての特徴がありますので、常に全身の転移を考慮し、10年という長い経過を追跡する必要があるのです。乳癌は日々新しい治療法が開発されています。多くの新しい種類の抗癌剤・放射線療法を選択・検討することが可能になりました。
  病期診断のみならず、早めの再発チェックにも今後のPET/CTの果たす役割は極めて大きいと言えます。
 症例2(52歳男性)はある病院で肺癌手術5年目の人です。まじめな性格で3カ月ごとにきちんと経過観察のため外来受診していました。最近、右肩甲骨が痛みを感じたため、外来医師にその旨を告げたところ、レントゲン・CTにより「何もないよ!」と湿布と鎮痛剤を渡されました。数週間後、たまたま会社の検診でPET/CTを受診。写真Aのように「赤い集まり」が見られました。明らかに肩甲骨への骨転移です。しかも幸いなことに転移先はまだここだけです。放射線治療が可能な例です。
 症例1も2も診断した医師の能力が低いのではなく、20世紀の診断技術では診断不能だったからです。21世紀の診断技術・PET/CTの成果と言えるのです。21世紀になりすでに7年経過しています。癌で死なないためにはより良い診断法の選択が望まれます。次回は多くの医師が癌外来で最も頭を悩ます「腫瘍マーカーが高値で、癌がどこにあるか分からない症例」についてお話しします。(平成19年8月1日 追加)


 これまでに「癌の早期発見の意義」と、今までにない新しい癌発見のテクノロジー「PET/CTの有用性」についてお話ししました。
 では、実際にどんな病気が見つかるのでしょうか?
 多くの方は「PET/CTは癌を発見するだけの機械」と思われていますが、実は癌だけではなく、多くの炎症や変性疾患・代謝性疾患が見つかるのです。
 しかも頭から骨盤までの臓器について病気を発見できるのです。そこで皆さんには手始めに"癌"について紹介します。
 まず、私の友人が「PET/CTを始めたそうだね?お客さんとしてつきあってあげるよ!」と当方にとってありがたい話でした。それが一つ目の症例(写真1)です。 本人は「どこも何ともありません」とのこと。PET像では膀胱の上に「真っ黒なもの」(PET/CT検査時に注射される薬『FDG』の集まり)が見られます。CT像では何も見えませんが、PET/CT像では黄色いものを大腸内腔に認めます。そこで、早速来院していただき、大腸内視鏡(大腸カメラ)でそれを確認しましたところ、写真のごとく直径10ミリの大腸ポリープがありました。すぐに大腸ポリープを切除・摘出しました。摘出したポリープを顕微鏡で観察すると、4ミリが癌細胞の塊でした。もちろん、リンパ節や肝臓への転移も認められず、友人は大いに喜びました。
 何の症状もなかったはずの大腸に癌が見つかりました。うまく癌から逃げられたのです。「PET/CTを受けてよかったでしょう?」と今度はこっちがありがたがられる番でした。
   二つ目の症例(写真2)はPET/CTの試験運転中にボランティアとして参加してくれた看護師の方でした。左乳房に検査薬剤(FDG)の集まり(集積)が見られます。FDGの集積度を示す数値は2.9と、癌と診断する目安ぎりぎりの3.0に近い値でした。すぐに触診させていただきましたが、「しこり」として触れません。MRI・マンモグラフィ・超音波検査などが行われましたが、癌とは診断できません。
 そこで本人と相談したところ、「分からないなら試験切除してください」と言うので切除しました。結果、癌細胞が見つかりました。"非触知性乳癌"です。
 私は「しこり」として触れない乳癌は発見したことがなく、初めての経験でした。驚きの発見です。
 これらの症例はともにCTやMRIなどの既存の医療機器では発見が難しい例です。言い換えると"21世紀型の癌診断機器"への進化の結果なのです。
 これら2例は、「癌イコール死」から「癌は治る」時代への実例です。
(平成19年6月22日 追加)


 今回はがんを見つけるPET/CTが本当に信頼できるのか? というお話です。
 がん検診(通常の人間ドック)は、臓器別に胃(胃カメラ)、腸(大腸カメラ)、肺(胸部レントゲン、CT)、子宮(超音波検査、細胞診)などです。各臓器個々にしか検査ができないため、宿泊が必要であったり、検査に手間と苦痛が伴うのが欠点です。すべての臓器を行うには、費用(数十万円)も時間(数日)もかかり、さらに医療事故も起こる可能性まであります。
 しかし、通常の人間ドック(がんドック)のもっと大きな欠点は、実はがん発見率が意外と低いということです。日本検診学会の発表では、人口1000人に1人しかがんを発見していません。
 ところがPETドックでは1038人中40人であり、従来の人間ドックの40倍というデータを国立がんセンターは驚くべき数字を発表しています。これは、今までの通常の人間ドックでがんがたくさん見逃されてきたということです。従来法に比べPETやPET/CTがいかに優れているかの証左です。
 ところが昨年3月、国立がんセンターの森山先生が「PETは(単独では)がん診断率が低い(だからCTを併用してください)」と記者会見した際に、記者が( )の部分を聞き逃し、「PETはがん診断率が低い」と報道してしまい、大きな誤解を与えてしまいました。PETとCTを別々に撮影する複雑さから起きた事件でしたが、関係者が苦慮していたその時期に、「PET/CT
  の厚生労働省使用認可」が出され、これまで別々だったPETとCTを一体に組み込んだPET/CT」が登場したのです。これにより、両者の画像が重なって描かれる故に、素晴らしく診断率が向上し、誤診が激減しました。機能診断と形態診断をひとつにした診断装置は医学の世界では初めての出来事でした。米国ではほとんどのがん施設がPET/CTに入れ替わり、日本でも大都市圏ではFDG薬のデリバリーを利用したPET/CTカメラだけを設置する病院が急増しています。
 また、PET/CTはがんを見つけるだけの機械と思われていると思いますが、炎症を見つけることができます。副鼻腔炎、歯周囲炎、慢性甲状腺炎、肺炎、胃炎、大腸炎、間接周囲炎などです。さらには糖尿病などの代謝性疾患や内臓脂肪蓄積、冠動脈硬化症、心筋梗塞、痴呆症、脳梗塞など多岐にわたります。メタボリック症候群など生活習慣病の診断に大きく寄与するのです。頭部からの骨盤にいたるすべての領域のがんと炎症その他疾患を一挙に診断してしまうPET/CTの有用性が充分にご理解いただけたと思います。
 次回からはPET/CTによるがんの検査法と症例の画像を解説、供覧します。


 「がんは怖い」これがすべての人の共通の思いです。
 がんイコール死なのです。兼好法師は「死は前よりも来らず、かねて後にせまれり」(徒然草第一五五段)と言っています。すなわち「死は徐々にまえからやって来るのではなく、気づいたら後から背中を突然たたかれるように死は後に迫っているものだ。日ごろから注意しときなさい」と言いたかったのでしょう。確かに「あなたはがんだ」と医師から言われたら、頭は真っ白になるでしょう。それくらい死に対する心構えができてないのが、われわれ一般人です。でも、死が前から来ているのが事前に分かるとすると、これは残された人生の対処法が分かるというものです。
 できれば死にたくない。がんが事前に分かる方法はないものでしょうか? あります。それはがん検診です。でも、がん検診でどれくらい前に分かるか?といったことが大切です。手遅れになる前でないと意味がありません。下の図を見てください。胃がんの自然経過モデルです。人間の臓器の一個の細胞にがん化のスイッチが入るとがん細胞に変わります。がん細胞のサイズは一個十ミクロン(百分の一ミリ)であり、肉眼では見えないのです。倍々で増殖してゆき、直径一センチのサイズになるまでに胃がんならば十〜二十年の歳月を要します。それでやっと医師が胃カメラなど画像で発見できるサイズなのです。その後は三〜五年で急速に増大し移転と個体の死をもたらすのです。
   通常、人は症状が出る最後の三年前後になって初めて医療機関を受診するのです。その時期はすでに転移し、治療法が限られ、中には手術時期さえも既に逸している症例が多くあるのです。がんイコール死の時期なのです。手術ができた症例でも患者さんは「がん細胞は手術によりすべて切除できたイコール手術は成功」と考えがちですが、実は上記のごとく、がん細胞一個は顕微鏡で初めて見えるサイズであり、手術中、医師の肉眼では見えないのです。すなわち小さい転移の見逃しが起こるのです。だから転移のない、できるだけ早期に手術や放射線治療などの局所治療は受けるべきなのです。がんイコール治療できる時代が到来したのです。できるだけ早い時期の発見方法が検診なのです。
 では既存の検診方法で十分なのか? それをさらに早い時期のがん発見を可能にしたのがPET検診です。本シリーズは皆さんに「がんで死なない方法について」、すなわちすべての皆さんが、がんと言われても頭が真っ白にならない方法を披露いたします。


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